東京地方裁判所 平成元年(ワ)7440号・平元年(ワ)14859号・昭62年(ワ)296号・平元年(ワ)9885号・平元年(ワ)14860号 判決
主文
一 被告会社、被告Y2、被告Y4、被告Y3、被告Y5、被告Y6、被告Y7及び被告Y8は、連帯して、原告に対し、金四二一四万円及びこれに対する昭和六二年一月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告の被告会社、被告Y2、被告Y4、被告Y3、被告Y5、被告Y6、被告Y7及び被告Y8に対するその余の請求をいずれも棄却する。
三 原告の被告Y9、被告Y10及び被告Y11に対する本訴請求をいずれも棄却する。
四 被告Y9、被告Y10及び被告Y11の原告に対する反訴請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用は、原告に生じた費用の一〇分の三並びに被告会社、被告Y2、被告Y4、被告Y3、被告Y5、被告Y6、被告Y7及び被告Y8に生じた費用の一〇分の一並びに被告Y9、被告Y10及び被告Y11に生じた費用の二分の一を原告の負担とし、原告に生じた費用の一〇分の六並びに被告会社、被告Y2、被告Y4、被告Y3、被告Y5、被告Y6、被告Y7及び被告Y8に生じたその余の費用を被告会社、被告Y2、被告Y4、被告Y3、被告Y5、被告Y6、被告Y7及び被告Y8の負担とし、原告に生じたその余の費用及び被告Y9、被告Y10及び被告Y11に生じたその余の費用を被告Y9、被告Y10及び被告Y11の負担とする。
六 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一(第一事件)
被告会社、被告Y2、被告Y4、被告Y3、被告Y5及び被告Y6は、原告に対し、連帯して金四五二〇万円及びこれに対する昭和六二年一月一日から支払済まで、年五分の割合による金員を支払え。
二(第二事件本訴)
被告Y7、被告Y8、被告Y9及び被告Y10は、原告に対し、連帯して金四五二〇万円及びこれに対する昭和六二年一月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
三(第二事件反訴)
原告は、被告Y9及び被告Y10に対し、それぞれ金五〇万円及びこれに対する平成元年一一月一六日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
四(第三事件反訴)
被告Y11は、原告に対し、金四五二〇万円及びこれに対する昭和六二年一月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
五(第三事件反訴)
原告は、被告Y11に対し、金五〇万円及びこれに対する平成元年一一月一六日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件(第一事件、第二事件本訴及び第三事件本訴)は、被告会社とパラジウムの取引をした原告が、被告会社は、一般大衆から保証金名目で金員を詐取するために設立、運営されていた会社であり、被告Y7が右詐欺行為の舞台装置として開設、運営していた○○センターなるパラジウム地金取引の私設市場(被告市場)の会員としてパラジウム取引を行っていたものであるところ、右パラジウム取引は被告会社及び被告Y7が行った組織的計画的な詐欺行為であると主張し、被告会社従業員の詐欺的勧誘によりパラジウムの「現物条件付保証取引」と称する取引の保証金名目で被告会社に預託させられた三八七〇万円及び精神的損害三〇〇万円並びに弁護士費用四五〇万円の合計四六二〇万円から返却を受けた三六万円を控除した残金四五八四万円の内金四五二〇万円について、①被告会社、被告会社代表取締役の被告Y2、被告会社取締役の被告Y4及び被告Y3並びに原告を勧誘した被告会社従業員の被告Y5及び被告Y6に対し(第一事件)、②被告Y7、被告Y7の代表取締役である被告Y8、被告会社の発起人である被告Y9及び被告Y10に対し(第二事件本訴)、③被告会社の発起人である被告Y11に対し(第三事件本訴)、不法行為(民法七〇九条及び七一九条、被告会社については併せて民法七一五条)に基づき、それぞれ、その賠償を求めた事案である。
本件(第二事件反訴及び第三事件反訴)は、被告Y9、被告Y10及び被告Y11が、原告の第二・第三事件本訴請求は虚偽の事実に基づいて提起されたものであると主張し、右本訴請求に応訴させられたことによる損害として、それぞれ五〇万円の損害賠償を求めた事案である。
一争いのない事実等
1(当事者)
(一) 原告は、本件当時(原告が後記のパラジウム取引を行った当時、以下同じ。)、定職を持たない男性であり、被告会社との間でパラジウムの「現物条件付保証取引」と称する取引を行った。
(二) 被告Y7は、昭和五六年六月四日に設立され、本件当時は、パラジウムの「現物条件付保証取引」と称する取引を行う私設市場(被告市場)を開設していた。
被告Y8は、本件当時、被告Y7の代表取締役であった。
(三) 被告会社は、海外先物取引等を目的として、昭和六一年三月六日に設立され、被告Y7の会員であるとして、被告市場に加盟していた。
被告Y2は、本件当時、被告会社の代表取締役であり、被告Y4及び被告Y3は、被告会社の取締役であった。
被告Y5及び被告Y6は、本件当時、被告会社の従業員であった。
(四) 被告Y9、被告Y10及び被告Y11は、被告会社の発起人である。
2(本件取引)
原告は、被告会社従業員の勧誘により、昭和六一年七月三〇日ころ、被告会社との間でパラジウムの「現物条件付保証取引」と称する取引契約を締結した。原告は、同年一二月一五日に取引を終了するまでの間に、被告会社に対し、合計三八七〇万円を支払った。
被告会社において原告名義で行った取引(本件取引)は、別紙売買取引一覧表のとおりである。
(原告と被告会社、被告Y2、被告Y4、被告Y3、被告Y5、被告Y6、被告Y7及び被告Y8との間では争いがなく、原告と被告Y9、被告Y10及び被告Y11との間では、証拠(<書証番号略>、被告Y2(第一、二回)、被告Y5、被告Y6、原告)により認めることができる。)
二争点
1 本件取引の違法性の有無
2 被告ら各自の不法行為責任の成否
3 原告の損害の範囲
4 発起人に対する損害賠償請求訴訟提起の不当性の有無
第三争点に対する判断
一前記争いのない事実及び証拠(<書証番号略>、被告Y2(第一、二回)、被告Y5、被告Y6、被告Y3、被告Y8、被告Y10、原告)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
1(被告Y7設立及び被告市場開設等)
被告Y8は、大学卒業後に会社員となり、その後、金の現物販売を行う共和ゴールド株式会社に入り常務となったが、昭和五三年ころ、商取新報という経済新聞を発行していた山口栄二から社団法人日本通商振興協会(日本通商)の藤嶋和朗を紹介され、そのころ、日本通商が開設した私設市場である「中央貴金属市場」に勤務し、右市場に勤務する間に、同市場で行われていたパラジウムの「現物条件付保証取引」と称する取引方法を経験し、昭和五七年八月ころ、被告Y7に入社して、その代表取締役となった。
被告Y7は、昭和五六年六月ころに山口によって設立された会社であったが、被告Y8が入社した昭和五七年八月ころに、本店を移転して、私設市場(被告市場)を開設した。被告市場は、法律上の根拠に基づいて設立されたものではなく、また、その業務執行についても行政官庁等の監督を受けていなかった。
2(被告市場における取引の実態)
(一)(被告市場の概要)
被告市場では、当初はプラチナを取り扱っていたが、昭和五九年ころ、プラチナが政令指定商品となった後は、パラジウムを商品として取り扱うようになった。
被告市場の会員数は、市場開設当初は一〇社ほどあり、昭和六〇年から昭和六一年前半にかけての最多数時には一八社あったが、その後、徐々に減少し、平成二年四月ころには五社となり、被告Y7が営業を停止した同年七月ころには二社となっていた。そして、会員業者は、大きなところでも従業員二〇名程度の比較的小規模の業者であり、また、本件当時、会員の中にはパラジウムの製造、加工又は輸出入等の業務に携わるなどのパラジウム取扱業者はいなかった。
また、被告Y7の従業員は、市場開設当時である昭和五七年ころは八名ほどであったが、経営の行き詰まりによって昭和六一年春ころから徐々に従業員を減らすようになり、平成二年三月ころは四人程度しかいなかった。
(二)(現物条件付保証取引)
被告市場で行われていた「現物条件付保証取引」とは、期日に現物の受渡しが行われることを原則とする取引であったが、顧客が現物を欲しないなど現物の受渡しが行われないときには先物取引と同様の形態となる。被告市場においては、現物の受渡しがされることはほとんどなく、昭和六一年中には一回あったかどうかという程度であり、実際には、ほぼ全ての売買が期日までに反対売買が行われる差金決済によって処理されていた。したがって、被告市場で行われていた取引の実態は先物取引であった。
(三)(立会い及び価格決定方法等)
被告市場における取引は、板寄せ(場、節等により一定の取引時間帯を決めて取引を行う形態)によって行われ、一日のうち、午前、午後各二場節(合計四場節)の立会いが開かれていた。立会いは、会員が市場に集まって行われることを原則としていたが、現実には会員が市場に集まることはなく、被告Y7の職員が会員からの電話を受けて会員の売買を代行する形で行われていた。
また、被告市場における商品の価格決定は、ニューヨークのパラジウム市場の前日の終わり値を円換算して算出した「市場気配値」を「基準値」と称し、これを市場に発表して立会いを開始し、その当日中は右基準値の上下五パーセントをストップ値として競りを行い、売り注文と買い注文が一致した時点で取引成立として価格を決定するという方法によることとされていた。そして、右基準値及び取引成立の際の値段等は、各場節の終了ごとに各会員に対してファックスで送信する方法で発表されていたものの、被告市場では相場を日刊紙に載せるなどはしておらず、適宜発行される業界紙に掲載されるのみであったから、客が相場を知りたい場合には会員に対して電話で尋ねるなどの方法によるしかなかった。
(四)(取引方法等)
被告市場では現物取引はほとんど行われず、取引の実態は先物取引であった。しかも、現実には、売り注文と買い注文とが同数となる取引が大半であり、反対売買により生じた差額をもって決済する差金決済が行われる場合すら多くはなかった。これは、客の注文に対して、会員業者が同数の反対注文をつける「向かい玉」が多く行われていたためであり、ことに、一定の条件の下に取引をした会員業者の市場への報告をもって市場が当該取引の成立を認める「バイカイ(売買の意味)付け出し」による取引が多くを占めていた。被告市場においては、バイカイ付け出しによる取引成立の場合は保証金の納付義務が免除されており、業者はバイカイ付け出しを行うことによって、顧客から交付を受けた保証金を被告市場に納入することなく、その全額を手元に保有することができた。
また、被告市場では、売り注文又は買い注文のいずれか一方のみがあったが、ストップ値まで値段を変動させても反対注文がなく、売買が成立しない場合には、当該注文を出した業者が反対注文を出して売買を成立させなければならないものとされ、また、立会いによっても注文がなく売買が成立しないときには、義務売買制度と称する方法により、当番となった会員が持ち回りで義務的に売り注文と買い注文を出して売買を成立させ、値段を付けることとしていた。したがって、このような場合には、実際上、競りによることなく値段が決定されていた。
そして、被告市場の会員は、全会員が毎日市場に参加して取引を行っていたものではなく、休眠状態の会員もあり、多くの会員業者は一週間に一、二回程度の取引しかなかった。
3(被告会社の実体等)
(一)(被告会社の設立経緯)
被告Y2は、東京商品取引所の会員であった都通商という会社において砂糖を取り扱う取引所の外務員として約一年間勤務した後、昭和五六年ころから昭和六〇ころまでの間、被告市場の会員であった朝日通商という会社を経営していた。
被告Y2は、被告Y11及び山口とは以前からの知り合いであり、また、被告Y10及び被告Y9とは昭和五四年ころ麻雀屋で知り合いとなり、昭和六一年ころ、被告Y9、被告Y10、被告Y11及び山口に対して、各別に、「貿易関係の新しい会社を設立するのだが、会社設立には人数をそろえなければならないので名前だけ貸してほしい。」と頼み、被告会社の発起人となってもらった。しかし、被告Y10らは、発起人になるに当たり、被告会社から報酬等を受けたことはなく、設立する会社がどのようなものかについても具体的な説明を受けたことはなかった。
そして、被告Y2は、昭和六一年三月ころ、被告会社を設立し、その代表取締役に就任した。
(二)(構成員等)
被告Y4は、被告会社の専務取締役として被告Y2に次ぐ地位にあり、先物取引の知識や営業の方法等を従業員に教育するなどしていた。
被告Y3は、以前の勤務先の社長と被告Y2が知り合いであったことから被告会社の設立に当たって名前を貸してほしいと頼まれ、被告会社の取締役となったが、実際には、事務員として経理と雑用を担当しており、被告Y2の決済に従って右経理事務を処理していた。
被告Y6は、昭和六一年二月に被告会社に入社し、その後、先物取引について、被告Y4から教えられたり、被告会社による営業のトレーニングを受けて教育された。
被告Y5は、昭和六一年三月ころに被告会社に入社し、本件当時は係長であり、被告Y6の上司という立場にあった。
(三)(被告会社の取引方法等)
被告会社は、電話による無差別勧誘によってパラジウム取引を行う新規顧客を開発していた。このような勧誘によることなく顧客の方から取引を申し込んでくる場合はほとんどなかった。
また、被告会社においては、客が注文を出しても取引が成立しない場合成立させる場合が多くあった。
(四)(保証金の管理状況等)
顧客は、被告会社に対して取引高の約二割に相当する保証金を委託することとされており、本件当時の委託保証金の額は、一キログラムにつき一五万円であった。被告会社は、右保証金を預り、そのうち約五割を被告市場に納入し、その残額は被告会社において保管し、株式取引などにより運用するということにしていた。そして、保証金は、顧客との取引が終了した時点で当該顧客に返還することとなっていた。
しかし、被告会社が本件当時の主たる取引銀行であったとする三和銀行八丁堀支店及び太陽神戸銀行日本橋支店の被告会社名義の預金口座には、顧客の保証金が取引ごとに入金されて被告会社において管理、保管されていたような形跡がうかがわれず、昭和六二年二月末日時点における預金の残高はいずれも数千円程度でしかなかった。また、被告会社が本件当時顧客の保証金を株式取引で運用していたとする主な証券会社のうち、大七証券では被告会社との取引はなく、野村証券でも昭和六三年ころに若干の取引がされた記録があるのみであった。そして、昭和六二年二月末ころに作成された被告会社の貸借対照表や損益計算書もずさんなもので、被告会社の財政状態を正確に反映したものではなかった上、被告会社と被告Y7との金銭のやりとりについては帳簿類すら存在しないなど、被告会社の金銭の管理状況は極めて不明確なものであった。
4(本件取引経過)
(一) 原告は、高等小学校卒業後、呉服屋に勤め、昭和一八年ころから昭和六一年一月に定年退職するまで、運送会社において荷物発送の受付事務を行っていた。原告は、本件当時、六二歳で、右運送会社の退職金を割賦で受け取りながら、厚生年金により生活をしていた。原告は、これまで、先物取引の経験はなかった。
(二) 原告は、昭和六一年七月中旬ころ、原告の妻の母である染谷志かから、「Y1という会社と取引をしており、預り証の再発行をしてもらいたいが年寄りなので、代わりに交渉をしてほしい。」との依頼を受けた。原告は、同月下旬ころ、被告会社に連絡をとり、同月三〇日、被告Y6及び谷川という被告会社従業員の訪問を受けた。
原告は、その際、被告Y6らから、パラジウム取引を勧められた。被告Y6らは、「パラジウム取引のご案内」と題する書面を原告に示し、「パラジウムは現在価格が五三三円であるが、過去には二六三〇円の高値になったこともあり、今買えばもうかる。」、「一二月の期限になれば二倍にはなる。」などと述べた。そこで、原告は、もうかるものであるならと思って取引を承諾し、被告Y6らの求めるままに、「現物条件付保証取引約款」と題する書面に署名押印を行った。被告Y6らは、このとき、原告に対し、「リスク告知書」と題する書面を示し、これにも原告の署名押印をさせたが、右書面の説明や先物取引の危険性についての説明は行わなかった。
原告は、本件取引がパラジウムの売買であり三か月で期限がくるということについては説明を受けたものの、その具体的内容については、株の取引のようなものであって取引すればもうかるものであるという程度の理解しかしておらず、前記各書面も被告Y6らに求められるままに署名押印したものであった。
(三) 原告は、このとき、被告Y6らから五〇〇万円を出せば二〇キログラムのパラジウムを買えるとの説明を受けたので、その場で右注文を行うことにし、白紙の注文書の注文者氏名住所欄に署名押印をして被告Y6らに交付した。被告Y6らは、原告に対し、「五〇〇万円を翌日に用意しておくように。」と述べて帰った。なお、原告は、このとき、同様の注文書に署名押印を求められ、白紙の注文書五、六枚に署名押印した。
原告は、翌日、被告Y6に五〇〇万円を交付した。そして、被告会社は、原告の署名押印を受けた注文書を利用して原告名義の注文を行った。
(四) 被告Y6は、昭和六一年八月一一日ころ、原告方に三六万円を持参して来訪し、原告に対し、「一週間足らずで五〇〇万円入れて三六万円もうかった。もっと増やしてはどうか。」などと勧めた。原告は、五〇〇万円が一週間で三六万円増えるのであれば、さらに投資すればもっともうかるのではないかと思ってその気になり、右同日、被告Y6と共に銀行や郵便局を訪れて預金等を解約し、一〇〇〇万円を調達した上、これを被告Y6に交付した。
(五) 被告Y5は、同年九月下旬ころ、被告Y6とともに原告方を訪問し、原告に対し、「あなたの取引は二五〇〇万円の損となっている。両建すれば一二月の終わりには金が戻るが、しなければ一銭も戻らない。」と述べた。そして、被告Y5らは、原告に対し、図を書いて、「今は損をしているが、一二月になればこのように相場が急騰するからもう少し待った方が良い。両建をしないと今までの投資が全部なくなるが、両建をすれば今のマイナス分がプラスになる。」などと説明した。
原告は、右説明を受けても、両建が具体的にいかなるものであるかは理解できず、両建とは被告Y5らが言うとおりの金額を納めればその分の損失が生じないことになる仕組みのものとのみ理解して、ここで何とか金の工面をしなければこれまでの投資が全く返らないことになると思った。そこで、原告は、前回の投資で銀行等の預金もなくなっており、また、定職もないため金融機関から融資をうけることは困難であると考え、被告Y5の名前を借りて融資を受けられないかと被告会社に尋ねた。被告Y2は、原告に対し、従業員を通じて、そのようなことはできないと断ったものの、被告Y2の知り合いの業者から土地建物を担保にして借金すればよいとの助言をした。原告は、土地建物を抵当に入れる危険性は分かっていたが、両建をしなければ今までの投資が全て損失になってしまうが、両建をすれば一二月には利益が戻ってくるという話を信じていたことから、土地建物は一時的に抵当に入れるだけであるから大丈夫であると考え、紹介された業者から二五〇〇万円を借り入れることとした。
そして、原告は、同月二五日、紹介を受けた協同組合城北住宅センターから、右二五〇〇万円のうち利息等二〇〇万円を差し引いた二三〇〇万円を受け取り、さらに、被告Y6から不足分を要求されたので、生活費として置いてあった七〇万円を併せて、右同日、合計二三七〇万円を被告Y6に交付した。
なお、右二五〇〇万円の借入れは、同年一二月二五日を期限としていたが、原告は、右期限までにその返済をすることができなかったため、土地建物を売却して右借入金を返済して、現在の住居へ移転した。
(六) 原告は、昭和六一年一一月二六日、被告会社から、「原告の取引は約四〇〇万円の損失が生じているので、保証金の額を訂正するために預かり証を切り換えることにする。」との連絡を受けた。原告は不安になり、被告会社に対し、「これだけ目減りしてしまっては仕方がないので、今までの取引を取り消して欲しい。」と求めたが、被告会社は、「いま解約すると全額が損になる。」などと返答した。
そのため、原告は、それでは大変なことになると考え、同年一二月一三日ころ、東京弁護士会に相談に行って指導を受けた上、同年一二月一三日、被告会社に対し、取引中止の内容証明郵便を発送した。右郵便は、同月一五日、被告会社に到達した。
被告会社の計算によると、右時点における本件取引清算の結果、被告会社は原告に対して四五五万円の清算金を支払わなければならないこととなっている。
(七) 原告は、本件取引中、被告会社に対して数回にわたり電話をして、投資した金が増えたかどうかを尋ねた。被告会社従業員は、「今、いい調子でいっている。」等の返答しかしなかったが、原告は、順調であるという右説明のみで納得し、ただ一二月に戻ってくるという利益を楽しみにして、それ以上の回答を追求することはしなかった。
原告が被告会社に対して電話をした際、被告会社従業員から、売り買いの注文の話が出ることもあったが、原告は内容が全く分からなかったので、よろしく頼む旨の返答をしたのみであり、注文に関する指示をしたことはなく、また、被告会社の方からは原告に対して電話をしてくることはなかった。
また、被告会社は、原告名義で被告市場に注文を出しても反対注文がないときには、被告会社が反対注文の相手方となる「向かい玉」によって取引を成立させていた。しかし、原告は、このことについても何も知らなかった。
そして、原告は、本件取引の間、数回にわたり、被告会社から、「御取引明細確認書」と題する書面の送付を受けたが、右文書に記載された数字等の内容を理解できず、また、売り買いについては自ら指示したことなどもなく、ただ取引を継続していれば一二月には利益を得られるものとのみ信じていたこともあって、右書面はただ保管していたのみであった。
二争点1(本件取引の違法性の有無)について
1 原告は、被告Y7の開設する被告市場で行われていた取引は先物取引であり、被告市場は商品取引所法(商取法)八条で禁止されている私設市場に該当するから、被告市場における取引は違法なものであると主張する。
前記一の2のとおり、被告市場で行われていた取引の実際は、現物の受渡しが行われることはほとんどなく、期日までに反対注文が行われて差金決済が行われることをむしろ常態とするものであったから、本件の現物条件付保証取引と称する取引は実質的には先物取引であった。
そして、先物取引は、極めて投機性が高く、差金決済によって短期間に大きな利益を上げることが可能である反面、取引の仕組みや用語が専門化されており、そのシステムを把握するために相当の知識経験を要するものであることもあって、ひとつ間違えば多額の損失を生じる危険性も少なくない。このように、先物取引は、いわば射倖契約的な構造を有するものであるから、このような取引が継続的、組織的に行われるときは、過当な投機や不健全な取引が生じる危険性は大きく、ことに取引のしくみや相場についての十分な知識を有しない素人が、その無知に剰じた過当な勧誘に誘発されて過当投機に巻き込まれ、多大な損害を受け、ひいては社会的混乱を引き起こすおそれも大きい。商取法八条は、このような先物取引の弊害の発生を防止するために、厳重な法規制によって組織、制度が整備され、取引の公正さが担保された取引所においてのみ先物取引を行い得るものとした趣旨のものである。そして、右のような弊害は、先物取引に類似する取引を行う施設一般において生じるものであって、当該施設で取り扱う商品が政令指定商品であるか否かとは無関係であるから、右商取法の趣旨は、取扱商品が政令指定商品であるか否かを問わず、私人が先物取引に類似する取引を行う施設を開設することを一般的に禁止したものと解するのが相当である。したがって、被告Y7開設の被告市場におけるパラジウム取引は、商取法八条に反する違法なものというべきである。
もっとも、被告らは、商取法八条は、同法二条二項の政令指定商品について適用される規定であり、指定外商品については適用がないのであり、パラジウムは指定外商品であるから、被告市場におけるパラジウム取引は何ら違法ではないと反論する。
たしかに、証拠(<書証番号略>)によれば、商取法八条について、被告ら主張のように解釈する見解があることも認められる。しかし、商取法の各規定に照らすと、同法の趣旨が商品取引の公正さの確保と商品取引の委託者の保護を主な目的としていることは否定できないので、取扱商品が政令指定外の商品であるということを理由として、右にみたような弊害と危険性を有する先物取引についても、これを行う私人が開設した施設についても、何らの法的規制が及ばないとすることは不合理であって、商取法の解釈として相当とはいい難い。よって、被告らの右反論は採用できない。
2 原告は、被告市場は、会員業者数が一八社しかなく、パラジウムの需給にかかわるパラジウム取扱業者の参加はなかった上、全会員が毎日売買を行っていたわけではなく、パラジウムの現物受渡しもほとんど行われておらず、しかも、取引価格は恣意的に決定されていたから、被告市場は取引市場の重要な機能である「リスクヘッジ」と「公正な価格の形成」を欠いており、取引市場としての実体も経済的意味も有しないものであったとして、被告市場は被告会社等の会員業者が投機的取引の素人から金員を詐取する舞台装置に過ぎなかったと主張するので検討する。
商品先物取引には、将来の価格の変動による損失を回避するというリスクヘッジの機能を有する側面があり、先物取引市場が右機能を発揮するためには当該商品を取り扱う業者の市場参加が不可欠である。しかし、前記一の2のとおり、被告市場においては、本件当時、右のような業者は市場に参加しておらず、また、パラジウムの現物受渡しが行われることもほとんどなかったから、被告市場はパラジウムの現物取引を目的とはしておらず、右のようなリスクヘッジの機能を有するものではなかった。
そして、先物取引等を行う市場等において公正な価格形成が行われていたというためには、多数の売り手と買い手とが競りに参加し、競争売買によって取引が成立することが必要である。ところが、前記一の2、3のとおり、被告市場の会員業者数は最多数時でも一八社程度であり、その規模も従業員二〇名程度の比較的小規模なものであり、全会員の参加による立会いが行われることはほとんどなく、しかも、多くの場合が「向かい玉」によって売り買い同額の注文で取引が成立しており、ことに立会いを経ないで値段が付けられる「バイカイ付け出し」の方法による場合が大半を占めていたというのであり、また、義務売買制度と称する方法等により、立会いによって取引が成立しない場合に競争売買によることなく一社のみで値段を決めることが可能であったことが認められる。このような被告市場の実態に照らすと、被告市場においては、競争売買によって取引を成立させることは好まれず、会員業者はむしろ市場の価格決定に影響を及ぼさない「バイカイ付け出し」の方法を積極的に利用していたことがうかがわれるのであり、被告市場で自由競争に基づく公正な価格形成が行われていたものとは認め難い。
以上によれば、被告市場が、被告会社等の会員業者が投機的取引の素人から金員を詐取する目的のために開設されたものであり、被告会社等の会員業者の詐欺の舞台装置に過ぎなかったとまではいえないとしても、被告会社等の会員業者が、投機的取引の素人に対し、後記認定のような不公正な勧誘等によりパラジウムの先物取引を行わせる手段として被告市場を利用していたことは容易に推認されるところである。
3 原告は、被告会社は無断売買、重要事項の告知義務違反、断定的判断の提供、不適格者勧誘、向かい玉、ころがし、のみ行為、無保証又は過少保証取引、両建、融資のあっせん等の違法行為によって本件取引及び勧誘を行ったものであり、被告会社の行為は取引を装った詐欺であると主張するので検討する。
争いのない事実及び前記一の3ないし5の事実並びに弁論の全趣旨によれば、本件取引の実態は、次のとおりであった。
(一) 被告会社従業員は、先物取引の投機的性格、危険性について説明らした説明を行うことなく、むしろ利益が確実に得られるかのように、素人に誤解を招く説明をして原告を取引に引き込んだものであり、原告名義で行われた本件取引は、原告には無断で行われて事後的にその承諾を取り付けたか、あるいは、利益が出ることが確実であると勧めたり、損失を回避するために必要であるなどと説得した上で行われたもので、いずれについても、原告が先物取引について理解した上で、およそ主体的な指示判断により行われたものとはいえない。
(二) 原告は、本件当時、六二歳の無職者で、年金によって生計を営んでおり、先物取引についての知識経験をほとんど有さず、いわば先物取引不適格者であったが、そのことを被告会社も知っていた。それにもかかわらず、最初の勧誘員であった被告Y6は、本件取引開始に当たり、原告に対し、パラジウム取引の仕組みやリスクについて一応の説明がされているパンフレット等を交付したものの、取引の仕組みやその実態、すなわち、被告市場は実質的には先物取引を行っており、先物取引では短期間に多大な損失を生じる危険性があることについては説明をせず、あたかも期限が来れば確実に利益が生じるような説明を行ったのみであった。そのため、原告は、本件取引の内容や先物取引の仕組み等については全く理解しないまま、勧誘員の一方的な説明を信じて、投資をすれば利益を得られるものとのみ理解して本件取引を開始した。
(三) 被告会社は、本件取引の期間中も、原告からの電話に対し、取引が順調に行われていると述べるだけで、相場の動向や原告名義で行われた取引の経過については具体的な説明は何ら行わなかった。さらに、原告が両建をするに際しても、被告Y6及び被告Y5は、その仕組みを十分に説明することなく、「両建をしなければ今までの投資が全部なくなる。」などと述べて、両建による追加投資を行う以外には選択の余地がないかのような説明をしたばかりか、原告がその唯一の資産である土地建物を担保にして融資を受けることを勧めて金融業者のあっせんを行った。
(四) また、被告市場においては、被告会社を含む会員業者が顧客の注文に対して「向かい玉」を建てて取引を成立させていた。このように、「向かい玉」によって顧客の注文に対する同数の反対注文を市場に取り次ぐ場合には、顧客が利益を得るときは業者は損失を被り、顧客が損失を被るときは業者は利益を得ることになるから、顧客と業者の利害は完全に対立することになる。そうすると、本件のように、顧客が取引の仕組みや市場のシステムについて十分な理解を有さず、その主体的な指示、判断によって取引を行うことなく、会員業者からの一方的情報によって勧められるままに取引を行い、また、会員業者が顧客に無断で取引を成立させているような場合においては、会員業者が顧客の注文に対して「向かい玉」を建てる目的は、結局において顧客に生ずる損失をもって自己の利益を図ろうとするものであると推認せざるを得ない。
本件取引においては、被告会社が原告名義で行った注文に対して「向かい玉」を建てて取引を成立させていたことは前示したとおりであるから、被告会社には、右のように原告の損失において自己の利益を図ろうとする目的があったものと推認せざるを得ない。
(五) そして、原告は、結局、合計三八七〇万円を被告会社に交付したが、被告会社からは、本件取引から得られた利益であるという三六万円を受領したほかには何らの金銭も受領しておらず、被告会社が原告の本件取引終了に伴って清算すべきであるとした保証金残額四五五万円についても返還を受けていない。
以上によれば、被告会社は、本件取引の過程において、無断売買、重要事項の告知義務違反、断定的判断の提供、不適格者勧誘、向かい玉、両建、融資のあっせんを行ったことが認められる。
そして、先物取引が高度の危険性を有するものであることは前示のとおりであるから、被告会社が顧客を勧誘するに当たっては、取引の内容、仕組み等を十分に説明し、先物取引の投機性と危険性を告知すべき義務があるというべきであるにもかかわらず、被告会社従業員は、取引の実態を隠蔽し、安全かつ極めて有利な取引であるかのように装って、この種の取引に知識経験を有しない原告を取引に引き込んだ上、その後においても利益が出るとか、さらに投資をしなければ損失が生じるなどと述べて取引を拡大させ、さらには自己資金のなくなった原告に融資をあっせんして借入れを受けさせ、しかも原告名義による取引は無断売買や向かい玉の方法によって行ったものであって、結局、被告会社は、原告の無知と金をもうけたいという心理を巧妙に利用して、被告会社の思惑どおりの取引を継続させたものである。そうであれば、このような本件取引及び勧誘は、全体として、被告会社による詐欺的行為と評価するのが相当である。なお、ころがし、のみ行為及び無保証又は過少保証取引については、被告会社がこれらの行為を行っていたと認めるに足りる的確な証拠はない。
もっとも、被告らは、被告会社従業員は本件取引を開始するに当たり、原告に十分な説明を行って本件取引契約を締結し、その後の取引も原告の指示を受けて行ったものであるし、向かい玉は原告の自由な意思に基づく取引であるから何ら違法なものではなく、また、両建の方法を選択したのは原告自身であって、被告会社は原告から頼まれてやむなく融資先を紹介したにすぎない等として、本件取引は何ら詐欺行為ではないと反論するが、前示の被告市場の実態及び本件取引の経過及び実態に照らし、右反論はいずれも採用できない。
三争点2(被告ら各自の不法行為責任の成否)について
1(被告会社、被告Y2、被告Y3、被告Y5、被告Y6及び被告Y4について)
前記認定の被告市場の不公正さ、そこで行われている先物取引の危険性及び本件取引の経過とその実態並びに被告会社における保証金の管理や経理事務のずさんさ及び金銭管理状況の不明確さに照らすと、本件は、被告会社の営業方針として、取引の実態を原告に知らせずに、その無知と利欲心を利用して原告を本件取引に引き込み、いったん取引を開始させた後はさらに取引を拡大をさせ、最終的には原告が保証金名目に投下した金を自己の手中に納めようとする意図のもとに取引を継続させたものであり、本件取引は全体として組織的な詐欺行為として行われたものであることが推認される。そうすると、このような詐欺行為は、被告会社の組織ぐるみの違法行為というべきである。したがって、標記の被告会社らは、次のとおり、それぞれ不法行為責任を負い、これらは共同不法行為を構成する。
(一) 被告Y5及び被告Y6は、被告会社の営業方針に従い、本件取引の勧誘に直接従事して詐欺行為に加担したものであり、各自、不法行為責任を負う。
(二) 被告会社は、前示のような詐欺行為を組織体として行っていたものであり、それ自体が不法行為責任を構成するとともに、被告Y5及び被告Y6の行為は被告会社の業務の執行についてされたものであるから、被告Y5及び被告Y6の前記不法行為責任につき、使用者責任による不法行為責任を負う。
(三) 被告Y2は、被告会社の代表取締役として、被告会社の違法な営業活動を企画し、その指揮監督を行うとともに、自らも本件取引に直接関与したものであり、また、被告Y4は、被告会社の取締役として、被告会社の営業活動に関与し、被告Y6ら従業員に対して営業方針、勧誘方法等の教育を行ったものであり、いずれも不法行為責任を免れない。
(四) 被告Y3は、前記認定のとおり、被告会社の取締役であったものの、現実には取締役の業務は行わずに経理及び雑用事務を担当し、一般従業員程度の給料しかもらっていなかった。しかし、被告Y3は、取締役でありながら被告会社の組織ぐるみの違法な活動に対し何ら適切な措置をとることもなく、被告Y2の決済どおりの経理事務処理を行い、右を通じて、結局は被告会社の前示のような詐欺行為に加担したものと評価せざるを得ないから、不法行為責任を免れないというべきである。
2(被告Y7及び被告Y8について)
前示のとおり、被告Y7は、被告会社等の会員業者が投機的取引の素人から金員を詐取するための舞台装置を提供することを目的として被告市場を開設したとまで認めるに足りる証拠はないとしても、被告市場の価格形成の不公正さ、市場で行われていた取引の実態及び危険性並びに右取引によって取引の委託者である素人が損害を受ける危険性の高さに照らすと、被告Y7においては、会員業者が無知な投機的取引の素人を危険な取引に引き込んで損害を被らせる可能性が極めて高いことを認識しながら、そのような弊害や危険性を回避するための措置を何らとることなく、あえて、不公正かつ違法な被告市場の開設、運営を行い、会員業者たる被告会社が、原告に対し、前記のような不法行為を行うことを放置したことが推認される。また、被告Y8も、被告Y7の代表取締役として、右のような事情を十分知りながら、市場の公正さを確保するための措置をとることなく、あえて不公正かつ違法な被告市場の開設及び運営を行って、被告会社の不法行為を放置していたものと認められる。
そうすると、被告Y7及び被告Y8の行為は、いずれも不法行為を構成するというべきである。そして、これらは、以上認定の経過に照らし、被告会社らとの共同不法行為となると解するのが相当である。
3(被告Y9、被告Y10及び被告Y11について)
原告は、被告Y9らは被告会社の発起人として、違法行為を行う被告会社の設立に加担したから共同して不法行為責任を負うと主張し、また、仮に被告Y9らが被告会社が違法行為を行う会社であることを知らなかったとしても、被告会社の業務内容等については知ることができ、かつ、知った上はその詐欺行為に加担すべきでない注意義務があるのにこれを怠った過失があるから、やはり不法行為責任を負うと主張する。
しかしながら、前示のとおり、被告Y9らは、被告Y2の知り合いであったことから依頼を受けて被告会社の発起人となったものであるが、その際、被告会社設立の動機、事業目的、事業内容等については何らの具体的な説明を受けておらず、ただ、貿易関係の会社であるとのみ説明されて、人数合わせのために発起人となることを承諾したものであり、発起人としての署名押印をした以外には、何ら設立行為に関与したのではなかった。そうであれば、被告Y9らは、被告会社の業務内容につき具体的なことは何も知らなかったのであり、また、被告Y9らにおいて被告会社の設立に際して、被告会社が本件のような詐欺行為を組織ぐるみで行うことを目的とするような集団であったことを認識していたとか、認識し得べきであった事情を認めることもできない。そして、本件当時においても、パラジウムの取引を行うこと自体は違法であったわけではないから、被告会社がパラジウム取引を目的として設立されたとしても、そのこと自体が不法行為を構成するとはいえないことは当然であるし、被告会社が本件取引のような詐欺行為を行ったということをもって、さかのぼって、その設立行為も違法であったとすることもまたできないというべきである。被告Y9らにおいては、発起人になるに当たり、被告会社の設立目的、業務内容等について十分に理解しなければならない一般的な注意義務があり、知り合いの被告Y2の依頼に応じて安易に発起人に名義を貸したことは軽率であったとのそしりを免れないとしても、本件の経過に鑑み、被告Y9らが発起人を承諾するに当たり、被告会社が前記のような不法行為を行う会社であることを知っていたか又は知り得べき注意義務があったとまでいうことは困難であり、結局、被告Y9らには、不法行為責任を認めることはできないと解するのが相当である。
よって、原告の主張は採用できない。
四争点3(原告の損害の範囲)について
1(本件取引による損害)
争いのない事実及び前記二の3のとおり、原告は、被告会社に対し、合計三八七〇万円の金員を交付した。これは、前示のとおり、被告会社の組織ぐるみの欺詐行為により騙取されたものであるから、右全額が被告らの共同不法行為によって生じた原告の損害となるが、原告は、被告会社から三六万円の返還を受けているので、結局、三八七〇万円から右三六万円を差し引いた残額三八三四万円が原告の被った損害となる。
2(慰謝料)
原告は、被告らの不法行為により、精神的苦痛を被ったことによる慰謝料として、被告らに対し、三〇〇万円を請求する。
前記認定の被告らの不法行為によって原告が精神的苦痛を受けたことは容易に推察できるけれども、財産的損害に伴う精神的損害は、右財産的損害の賠償によって一応慰謝されるものと考えられ、また、これは経済的取引により、結果として利益を得られなかったことから生じたもので、原告としてもある程度覚悟すべき範囲のものであったということも考慮すると、本件において、財産的損害のほかに精神的損害の賠償までも認めることは相当とはいえない。よって、原告の被告会社らに対する慰謝料請求は認められない。
3(過失相殺)
被告会社、被告Y2、被告Y3、被告Y5、被告Y7及び被告Y8は、原告に生じた損害につき、原告の過失を過失相殺すべきであると主張する。
前記認定の本件取引の経過に照らすと、原告にも軽率な点があったというべきであるが、損害の公平な分担をはかるという過失相殺の趣旨に照らし、本件において過失相殺をすることは原告に酷である。よって、被告の右主張は採用できない。
4(弁護士費用)
原告が本件訴訟の提起、遂行を原告代理人に委任し、弁護士報酬を支払うことを約していることは弁論の全趣旨により明らかであるところ、本件事案の内容、訴訟の経過、認容額その他、諸般の事情を考慮すれば、原告の請求する弁護士費用四五〇万円のうち、三八〇万円について、本件不法行為と相当因果関係にある費用の範囲内にあるものと認めるのが相当である。
5 以上により、原告の請求のうち合計四二一四万円については理由がある。
五争点4(原告の発起人に対する損害賠償訴訟提起の不当性の有無)
被告Y9、被告Y10及び被告Y11は、原告の虚偽の事実に基づいて起こされた第二・第三事件本訴の提起に応訴させられたことにより、弁護士費用相当額の損害を被ったとして、原告に対し、各自、五〇万円を請求する。
しかしながら、本件の経過並びに前記認定の被告会社らによる不法行為の内容及び態様に照らすと、原告において、被告会社の不法行為によって被った損害について、被告会社の発起人である被告Y9らに対する損害賠償請求訴訟を提起し、原告の被った損害を回復しようとしたことが不当ないしは違法であったとは認められない。なお、前示のとおり、結果としては、被告Y9らは原告の損害について発起人としての不法行為責任を負うものではないと判断しているが、このことが右結論を左右するものではない。よって、被告Y9、被告Y10及び被告Y11の右請求は理由がない。
第四結語
以上の次第であるから、原告の被告会社、被告Y2、被告Y4、被告Y3、被告Y5、被告Y6、被告Y7及び被告Y8に対する請求は、いずれも、連帯して金四二一四万円及びこれに対する不法行為の後である昭和六二年一月一日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は失当として棄却を免れず、原告の被告Y9、被告Y10及び被告Y11に対する本訴請求はいずれも理由がないから棄却し、被告Y9、被告Y10及び被告Y11の原告に対する反訴請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官宮﨑公男 裁判官井上哲男 裁判官河合覚子)
別紙売買取引一覧表(1)(2)<省略>